2020年12月19日
by 京都機械工具株式会社 |
公開:2020.12.19 18:10 更新:2021.10.04 16:23
弾性域から降伏点を越え塑性域に入ると、トルク(締め付ける力)の増加に対し、ボルトが伸びる割合は大きくなります。
しかし、人間の五感でこの変化を感じることは困難です。ある程度経験を積んだ作業者でも、トルク不足による緩みを防ぎたいという気持ちが無意識に働き、規定トルクを超えたトルクをかけがちです。
また、最近では各産業分野において、鉄以外のさまざまな素材が使われています。アルミや樹脂などの部品は、鉄製のものに比べ柔らかいため、同じ感覚で締め付けると部品自体を破損させてしまう可能性が高くなります。
トルク不足によるボルト・ナットの緩みだけでなく、オーバートルクによるボルトや部品の破損は、重大な事故を発生させる原因となります。そのため、経験や勘だけに頼ったトルク管理でなく、トルクレンチを用いた正確なトルク管理が望ましいのです。
トルクとは、Lの長さのレンチ(※)でFの力をかけた時にボルトに与えられる回転力Tの事です。
正確には、Lはボルトの回転軸から力をかける点までの距離(上図参照)ですが、ここでは説明を容易にするため、レンチの全長をLと表現しています。
例えば、100N(約10kgf)の力を1mの長さのレンチにかけた時のトルクは100N・m(約10kgf・m)となります。
トルクとは「F(力)✕L(長さ)」ですから、長さが長くなるほど大きなトルクがかけられる事になります。
100N(約10kgf)の力を2mの長さのレンチにかけた時のトルクは200N・m(約20kgf・m)となります。
ボルトを100N・m(約10kgf・m)で締め付けるとき、2mの長さのレンチを使えば50N(約5kgf)の力で作業ができます。
しかし、ボルトにはそれぞれ適正な締め付けトルクがあり、ボルトの種類や締め付ける場所・目的に応じて締め付けトルクが規定されています。レンチも基本的にはそのボルトに適正な締め付けトルクに耐えられる、又はそのトルクがかけられる長さに設定されているのです。
例えば乗用車のホイールナットの規定トルク値の多くは103N・mとなっており、ホイールナット用のトルクレンチは全長400mm程度あります。400mmのレンチで103N・mのトルクで締め付ける場合、必要とする力は257.5N(約26kgf)になります。
この力は、一般的に大人が軽く体重をかけるくらい(腰を落とす程度)のもので、手でかけられる力の上限に近いものです。一方、全長が半分の200mmのレンチで103N・mのトルクをかけるには、倍の515N(約52kgf)の力が必要なので、腕力だけではほとんど不可能となります。従って、ホイールナットを締め付けるには全長400mm程度のレンチが必要になるということが分かります。
トルクの単位は以前はkgf・m(キログラムメートル)が用いられていましたが、1993年に施行された「新計量法」によりSI単位(ISO国際規格)への移行が義務づけられ、現在では力の単位にはN(ニュートン)、トルクの単位にはN・m(ニュートンメートル)が使われています。1N・mは0.10197kgf・mで、逆に1kgf・mは9.8067N・mとなります。実際の作業においては1kgf・mは約10N・mと考えれば目安となるでしょう。
1kgf・m=9.8067N・m
1kgf・m≒10N・m
1N・m≒0.1kgf・m
計量法とは「計量の基準を定め、適正な計量の実施を確保」することで「経済の発展及び文化の向上に寄与する」ことを目的に制定された日本の法律で、昭和26年に制定された旧計量法に対し、1992年に全面改正された現行法は「新計量法」と呼ばれています。計量法では、計量単位を制定したり、取引や証明に使われる計量器の精度(正確さ)を維持するための様々な条項が定められています。新計量法により計量単位の国際単位系(SI)への全面移行が義務付けられた1999年以降、日本国内で販売されているトルクレンチの測定単位は国際単位系である「N・m」のみとなりました。計量法により測定単位が変わった身近な例としては、自動車のエンジン出力の単位が「PS」(馬力)から「kW」(キロワット)になったり、天気予報で耳にする気圧の単位が「mb」(ミリバール)から「hPa」(ヘクトパスカル)になった事などが挙げられます。
提供元:京都機械工具株式会社
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